僕は書家ではありません。そして遊墨も書道ではありません。 この作品は墨と紙と筆その他の道具、更にはパソコンまでも利用して文字を構成する、アートで言うならコラージュのような作品です。僕自身とくに書道を学んだわけではありませんので、書家の方々のように一枚の和紙に完成度の高い文字を書き上げる技術はありません。それでも何か言葉が浮かび、それをどうしても文字や絵に表わしてみたい衝動に駆られていた時、初めて日本酒のラベルデザインを依頼され、恐る恐る安い墨と紙と筆を買いに行きました。今から十年ほど前のことでした。しかし、何百字書いても思いどおりに書けません。そんな文字や線を見ているうちに、その中に部分的に気に入ったフォルムが散在していることに気がつきました。もしやこれらを繋ぎ合わせたら自分にしか作れない文字が出来るのでは…そう考えて試行錯誤を繰り返しました。その間、墨には遊ばれ、紙にも遊ばれの連続でしたが、何かがふっきれたというのでしょうか、十年目にして今度こそ僕自身が遊ばせてもらっています。そしてこれまで墨と遊び墨に遊ばれた当時を振り返り、これらを[遊墨]と名付けました。だから僕は遊墨の民「遊墨民」なのであります。 

遊墨民憧片木(Graphic Designer)江刺出身